<世襲経営だからできること>
ここ数年、柿安本店(2294)の収益力改善が顕著です。新業態や特定商品の好調によるものではなく、低採算業態の整理や体制の効率化が主因となっています。これらの改革は、2006年に父親の保氏に代わって社長に就任した赤塚保正氏が主導して行われました。
同社は三重県桑名市で1871年に創業された老舗牛肉店で、1972年に発売したしぐれ煮のヒットにより全国の百貨店に出店する企業となりました。1998年にはデパ地下向けの惣菜店「柿安ダイニング」の展開を開始、当初は苦戦したものの、手作り感を強調することで先発のロック・フィールド(2910)との差別化に成功しました。現在では2005年に開始した大型スーパー向け和菓子店「口福堂」が成長部門となっています。これらの業態開発を主導したのが前社長の保氏です。
彼は豊富な経験と勉強量に支えられたアイデアマンで、特に社長時代には毎年のように新業態を開始していました。その結果、同社は単なる精肉店にとどまらないユニークな企業に成長しましたが、反面で中途半端な状況にとどまった事業が業績の足を引っ張ることにもなりました。しかし、社長交代後は中国事業や自然食バイキングの大型店を皮切りに事業の整理を進め、同時に本社の簡素化も進めました。その効果により、長期にわたって10億円台にとどまっていた営業利益は、今期30億円をうかがう勢いです。
自社の成長を支えた経営方針を明確に修正できたのは、社長交代が世襲によるものだったことも要因だったと思います。前社長に登用された幹部社員であれば、ここまで大胆に事業整理を進めることは不可能だったでしょう。サラリーマン経営者による決断力の低下が目立つ今の日本において、オーナー企業の世襲は有力な経営手段の一つと言えるのではないでしょうか。
口福堂、いいっすね。きなこおはぎは好物です =)。
直近の月次売上開示だとずば抜けて売り上げが伸びている感は無いですね。説明会資料にある通り、どちらかというとリニューアル中心で今ある既存店の底上げと商品開発というのが重点項目のようです。
注目する点はやっぱり利益改善でしょうか。積極的な出店をしないのであれば利益改善は納得なのですがそのままだとジリ貧にならざるを得ないので、成長事業の育成あたりが課題なのかもしれません。口福堂の他にもう一事業展開してもいいんじゃないでしょうかね。和菓子推しの出店を強めてみるとか。
今のPERなら結構面白い位置にいる気はしますね。ただアベノミクス相場では高い成長性が評価されるでしょうから、小売業で収益改善ってのは如何にもパンチが弱い、というか。チャート的には安全な投資先に見えます。悪くない。
オーナー企業の世襲は、今の時代としては悪くないのかもしれません。中小型株銘柄だと結構あるのですが、どれも安定第一で危うい運用はしてきませんし、株券を使ったお遊びも殆どしてきません。逆に言うと、上場している主な理由は世襲交代での税対策だったりするわけで、既存株主に対する対応は雑になりがちです。株価が下がればMBOして逃げてしまうというどうしようもないケースも発生することもあって、もろ手を挙げて賛成するにはどうかなあ、とも。無理な成長は行わないものの、成長できる時期に積極的になれないというのも世襲オーナーにありがちなパターンかもしれません。
ということで、アベノミクス相場向きではないが銘柄としては悪くはないじゃまいか、というのが私の感想。